【運命の本との出会い】これからの人生に希望の光が見えた。夢を追いかける人は強く、輝く。
訪問看護の利用者さんより、ある本をお借りした。
それは、ご本人(Mさん)が自費出版した自叙伝である。
数年前に80歳を記念して出版された。
普段から、ある伝統文化の専門書に寄稿されたりエッセイを書かれたりと、物書きとして活動していることを知っていたので、Mさんがどんな文章を書くのか興味があった。
何より、普段は語りきれないMさんの長い人生を垣間見れると思うと、ワクワクした。
毎日、少しずつ読み進めている。
一字一句噛みしめながら、Mさんの紡ぐ美しい言葉や文章にうっとりし、またときにはMさんの見た情景を思い浮かべたりする。
本はまだ読んでいる途中だが、読み終えるのがもったいない気持ちでいる。
いつまでも読んでいたい。
それほどに、Mさんの文章は美しい。そしてユーモアと優しさがある。
人柄は文章に出るのだな、と正直に感動した。
そして、私はMさんと、この本に出会えたことを感謝せずにいられない。
* * *
プライバシーに関わるので詳細は語れないが、Mさんはある難病を患っている。
今は椅子やテーブルの端・本棚などを伝いながらなんとか移動できるが、寝たきりになる日が、そう遠くない未来に必ずやってくる。
週に1回の訪問看護は30分。
状態観察と精神的ケアが主だが、知的でユーモアのある楽しいおしゃべりに、毎回あっという間に30分が過ぎる。
そんなMさんは、ある日本の伝統文化において、ちょっと名の知れた方だ。
50代後半で、友人の誘いでその伝統文化に触れ、あっという間にのめり込んだ。
* * *
還暦を迎えたある朝、偶然目にしたTVニュースをきっかけに、Mさんの運命は思ってもみない方向に動き始める。
ヨーロッパでは、19世紀末にジャポニズムが大流行した。
そんな時代に、浮世絵をはじめ、日本刀や鎧などの美術品を、財産を投げ打って収集するひとりの貴族がいた。
その貴族が収集した約1万点におよぶコレクションを納める美術館が、ヨーロッパのある国に建設されるという。
Mさんは、このニュースを一目見て、「自分の作品をこの美術館に寄贈したい」と閃く。
それはまさに、体に閃光が走ったかのような衝動であったと想像する。
しかし、このときのMさんは一般家庭の主婦。
日本のとある伝統文化に造詣が深く、優れた技術があるといっても、無名であった。
そして、もういちど繰り返すが、このときすでに還暦であった。
* * *
Mさんは、ヨーロッパの地方都市に建設される日本美術館に、どうやったら自分の作品を寄贈できるだろうかと考える。
まず、納められる美術品について調べはじめる。
つぎに、その国と、美術館が建設される地方都市について調べる。
本の中では詳しく書かれていないが、凝り性のMさんのことだから、芋づる式にあらゆることを徹底的に調べあげたと想像する。
さらに、縁もゆかりもないヨーロッパの一国と、その美術館にどのように近づいたらよいのか考える。
そして驚くことに、美術館を建設する団体や、駐日大使館に直接コンタクトを取るという行動に出た。
美術館側からは、「前例がない」と一旦断られる。(当然といえば、当然である。一般庶民の作品を国立美術館に納めたいというのは、普通に考えて無謀すぎる。)
しかし、Mさんは諦めない。
今度は駐日大使館の大使宛に手紙を送り、親日家であった大使から幸運にも返事をもらい、会う約束を取り付け、実際に目黒の駐日大使館まで足を運んでいる。
そしてその駐日大使と美術館の館長が懇意であったことから、夢への扉が開かれる。
情熱と信念の塊、おそるべき行動力である。
しつこいようだが、このときのMさんは一介の主婦であり、無名であり、還暦を迎えていた。
言葉も通じない、どこにあるかも知らない国で自分の夢を実現するため、Mさんがとった行動は「思いついたことは、とにかくやってみる」ということ。
夢は思い描くだけでは実現しない。
自分が動かなければ何も変わらないということを、Mさんは体現している。
偶然見たニュースをきっかけに、無謀ともいえる夢を抱いた一年半後、Mさんは「自分の作品をヨーロッパのとある国の日本美術館に寄贈する」という夢を、見事に実現する。
さらに、この美術館の開館5周年記念には、Mさんの個展という形で特別展示まで開催された。
* * *
これらの運命や幸運をたぐり寄せたのは、紛れもないMさん自身がもつエネルギーだ。
そして、本の中では言及していないが、私はMさんの鋭いマーケティング能力に脱帽した。
「自分の勝てる場所」「前例がないこと」に直感的に反応し、「誰もやっていないことをやる」ということに臆せず、果敢にチャレンジしている。
普段はおっとりしているMさんだが、その佇まいは凛として、芯のある強い女性だというのがわかる。
90歳を手前にいても、なお輝いている。
この本で、その強さと輝きの原点を見たような気がした。
* * *
私は、前回のブログにも書いたが、2019年は変化の年にしようと思っている。
来年は37歳。
長いこと憧れていた「書く仕事」に、本格的に挑戦する。
正直、なぜもっと早くに挑戦しなかったのかという後悔がある。
でも、Mさんの本を読んで
- 挑戦するのに年齢は関係ない
- 「やりたい」と思ったときに行動する
- 壁にぶつかっても、いろんな角度で物事を見て、何度も挑戦すれば道は開ける
- 自分の勝てる場所を見つける
ということを教えてもらった。
残念ながらこの本は非売品で、すでに自費出版した分は友人・知人に配ってしまっていて、「最後の一冊だから差し上げることはできないの、ごめんなさいね。でも、読んでくれたら嬉しい」と言ってお借りしたもの。
いつでも読み返せるよう手元に置いておきたいと思うが、残念ながらそれは叶わない。でも、この後の人生の道しるべとなるような、運命的な本に出会えたことを感謝している。